BIO-TECHNOLOGY
血中バクテリア除去技術の開発について
私たちは京都大学と共同で、感染症や敗血症の治療に向けた「血中バクテリアを除去する技術」を開発しました。人体への侵襲リスクがないリポソームを用いたこの技術は、他の世界的な研究機関をリードするものであり、医療分野および産業分野への幅広い応用が期待されています。
近年、血中バクテリアによるパンデミックリスクが懸念されるようになってきました。また、全世界では5人に1人が血中バクテリアに起因する敗血症で命を落としているとの報告があります(注1)。現在の治療法はワクチンや薬物療法が主流ですが、副作用の恐れも指摘されています。そのため、血液中のバクテリア濃度を物理的に低減し、従来の治療法と併用する技術が求められております。
「Collectron」技術の概要
今回開発された技術では、血液中のバクテリアを吸着・回収する物質「Collectron」を利用しています。Collectronは、生体適合性の高いナノサイズのリポソームを核とし、血液中のバクテリアを選択的に吸着しつつ、赤血球や白血球の吸着を抑制するという特長があります。この吸着物質は、静電吸着器を通じて効率的に回収可能です。
生理食塩水を用いた実験では1回のフィルタリングで血中バクテリアを100%除去し、ろ過したウシ血液では55%の除去が確認されました。
他技術との比較
同様の技術として、ハーバード大学やチューリッヒ工科大学ではナノ磁気ビーズを用いた研究が進められています。それに対し、Collectronは体内に混入しても安全性が高いという特長を持っています。
本技術は感染症治療への応用に留まらず、医療分野における有害物質の吸着回収や、産業分野での試薬としての利用など、さまざまな分野での実用化が期待されています。
注1:
“Global, regional, and national sepsis incidence and mortality, 1990–2017: analysis for the Global Burden of Disease Study”, 2020年
CTC、真菌、細菌、ウィルスの吸着・回収およびサイトカイン・ストームの抑制を研究対象としています。

ナノサイズ粒子を血液中に投入し抗原と吸着させる「拡散・吸着工程」、抗原を吸着した後の「回収工程」から構成されています。

血中抗原を一定値以下に抑えるとともに従来からある化学療法を併用することで、副作用を最小限にした治療が可能ではないかと考えています。

今回開発したナノサイズ粒子“Collectron”は、正に帯電したリポソームをベースとして、抗原を吸着する抗体、血液成分の吸着を抑制するPEG(Polyethyleneglycol)を修飾しています。

“Collectron”開発に当たっては、①抗原への特異吸着最大化➁血中成分との非特異吸着抑制➂アニオン性吸着器への吸着最大化という3条件を満たす必要がありました。

修飾抗体、PEG脂質、カチオン性脂質についての検討を重ねました。
拡散・吸着工程 | 回収工程 | |||
検討要素 | 抗原との吸着 | 血液成分との吸着抑制 | アニオン性吸着器との吸着 | |
---|---|---|---|---|
修飾抗体 | 修飾抗体 | ++ | ||
修飾抗体濃度[μg/mg] | + | |||
PEG脂質 | PEG鎖長 | + | - | |
含有率[mol%] | ++ | - | ||
カチオン性脂質 | 含有率[mol%] | - | + |
注:正の影響を+、負の影響を-で表した。
“Collectron”の構造決定に当たっては、コロイド科学の泰斗である東京理科大・大島広行名誉教授にご指導いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。


この分野ではハーバード大学、チューリッヒ工科大学が、それぞれ抗原回収体として磁気ビーズを使用した研究を進めていますが、私たちは磁気ビーズが体内に混入するリスクを無視できないものと考えております。磁気ビーズには人体に有害なニッケルも含まれている上に、血栓リスクに対する安全性も担保されていないためです。
私たちの研究は、磁気ビーズ方式とリポソーム方式の2つに分けて進められました。磁気ビーズ方式においては、先行する研究機関にキャッチアップできたと考えており、検査用や産業用といった体内混入リスクがない分野への応用が有望です。
一方、リポソーム方式は人体への侵襲性リスクがない点が特長であり、医療分野および産業分野において幅広い応用が期待されています。
(2022年1月現在)
開発チーム | ハーバード大学 | チューリッヒ工科大学 | ハーバード大学 | Gogen Tech + 京都大学 | Gogen Tech + 京都大学 |
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分離方式 | 抗原抗体反応 磁気分離方式 (ナノ磁気ビーズ使用) ![]() | 抗原抗体反応 磁気分離方式 (ナノ磁気ビーズ使用) ![]() | 抗原抗体反応 中空糸膜使用 ** ![]() | 抗原抗体反応 磁気分離方式 (ナノ磁気ビーズ使用) ![]() | 抗原抗体反応 静電吸着方式 (リポソーム使用) ![]() |
除去効率 (1pass) | 〇 < 50% (1pass) * | 〇*** N.A. | △*** N.A. | 〇 38.2% | ◎ ≒55% (1 pass) |
血液中(1L/h) | 血液中 | 血液中 | 血液中 | 血液中***(10ml/h) | |
生体適合性 | △ | △ | ◎ | △ | ◎ |
* J. H. Kang et al., small, 2015, 11, No. 42, 5657–5666
** T.F. Didar et al., Biomaterials, 2015, 67, 382-392、*** The blood were diluted to twice by PBS buffer
*** 推定を含む.